松あき子の部屋

私が観た日本の伝統芸能・工芸品などを書きとめます。

梅川忠兵衛

文楽でも歌舞伎でも好きな演目ってあると思うんですが、私は「冥途の飛脚」の梅川が結構好きです。今年はこの上期だけで梅川忠兵衛づいていて、文楽、歌舞伎、大衆演劇都をどりまで、様々な形で拝見しました。文楽と歌舞伎では封印切の段を、大衆演劇都をどりでは新口村の道行の部分を見ました。あえて比較するようなことはしないんですけど、当然ながら描き方が全く違うので好みもはっきり分かれます。

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(都若丸座長の梅川)

 

「封印切」の配役はこんなこんな感じでした。

文楽  切:豊竹嶋大夫 三味線:野澤錦糸

歌舞伎 忠兵衛:四代目鴈治郎 梅川:鴈雀 八右衛門:仁左衛門

私は圧倒的に文楽の方が好みです。まずあの緊張感。手を出したら首が飛ぶ大事な公金の封を切ってしまうわけですから、それなりの説得力がいると思うのです。文楽で描かれる忠兵衛はほんまにあかんたれ、梅川に首ったけですがなんか憎めない所がある。梅川もええ女です。これ、結構重要やと思うんですよね。そうやないと忠兵衛がほんまのただのアホでお金を遣い込んだだけみたいになる。梅川の為やったら、と想像できる女でいて欲しいんです。歌舞伎ではその辺りがちょっとモサッとしてました。随分違って描かれていたのは八右衛門です。これは面白かったです。文楽ではそんなに悪者じゃないんですね。あまりに梅川に入れ込んでいる忠兵衛を諭すような立場でもあるんですが、歌舞伎では徹底的に嫌な奴。仁左衛門の八右衛門はちょっと品が良すぎる感じもしましたけど、男前なんで良しでしょう。歌舞伎で良かったのはおえんの秀太郎丈です。まぁどうしても歌舞伎やと、役者の方が前に出るんですかねぇ。文楽やと誰かが演じる忠兵衛ではなく、忠兵衛その者が現れますからね。見え方も違っていて当たり前です。

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梅川忠兵衛は道行も好きです。今は雪の中を逃れて行く設定になってますけど、昔は雨やったそうです。雨やと、ちょっと雰囲気が出ないですよね。やっぱり雪やないと。相手がつまずいたりして、裾についた雪を払ってやる仕草とかがいいんですよ。ちょっと目を合わせたりして。。この新口村の道行の部分は舞踊の要素も楽しめます。都をどりではしっとりと、大衆演劇では立回りなども入って豪華な舞台でした。若丸座長の梅川の美しいこと!最後に捕らわれる所までを演じていましたが、大衆演劇ならではのドラマチックな表現は圧巻でした。素晴らしかったです。生の義太夫三味線と合わせたらどうかいな、なんて妄想したり。短い時間で爆発的に表現する大衆演劇のエネルギーって、いつも本当にすごいなって思います。また、見たいです。