松あき子の部屋

私が観た日本の伝統芸能・工芸品などを書きとめます。

夏の涼 女殺油地獄

小雨の中、地元のお祭りが始まって賑やかな和太鼓演奏やお囃子を遠くに聞きながら帰宅する、そんな時期になりました。夏もぼやっとしてたら終わりそう。私は盆踊りに参加するのが好きで、ぶらっと踊りに加わります。知らない土地の民謡に合わせて輪に加わるのは、最初少し戸惑うのですが、めっちゃくちゃ楽しいんですよね。人生は絶対に「踊る阿呆」でいるのがいいと思います。青森のねぷた祭りも始まりましたしね。夏は夏らしく楽しみたいです。

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夏の涼というとどんな風に過ごされますか。私は夏は文楽座で”殺し”を目撃することにしています。昨夏は夏祭浪花鑑 団七の舅殺しを。今年は近松女殺油地獄を見てきました。余りにも有名なお話ですが、実は初めて拝見しました。不気味ですよねえ、この与兵衛って男。親を足蹴にし、借金まみれで恩あるお吉を惨殺し、その法要に知らぬ顔で現れる。まるで理解できません。見ているこちらは、お吉の最期を知っているだけに、「あかん、早よ逃げや」と、なんとも言えない気持ちでした。あの殺しの場面、あれは文楽人形ならではの表現ですね。灯の消えた店内で油に滑って転げ回りながら逃げるお吉、刃を振る与兵衛の姿が少し滑稽でもありながら、ぞっとする程恐ろしかったです。人間の役者には出来ないでしょうね。又、豊竹咲大夫の語りによって、一気に緊張感が走り劇場内の空気が一変したのも凄かったです。死んだお吉の横たわる姿は、正に人形遣いの手を離れて死んだ人形の姿で、これも人間の演じる死体とは違っていつも背筋が寒くなります。夏の涼をとるには、やはりこれが一番ですね。

 

所で、私の座った一つ隣の席に、噺家桂吉坊さんがおられました。吉坊さんは本当に藝に精通しておられて、高座のお話もいつも面白いのですが、こうやってよく勉強されてるのですね。恥ずかしくて話しかけられなかったのが悔やまれますが、こういう方の芸を見る事ができる幸せも感じたりしたのでした。プロの吉坊さんは、どんな風にこの舞台をご覧になったのかしら。。伺ってみたいですね。